メカブ(メカPのブログ)

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たべるんごのうたブームは音MADのブームではなかった

たべるんごのうた1周年に寄せて、あまり語られてこなかった切り口でたべるんごブームを振り返る記事その1です[1]



さて「たべるんごのうたブームは音MADのブームではなかった」というのが本記事の主題です。

音MADとは、狭い意味では「元ネタの音声をサンプリングして使用曲のリズムに合わせて配置したMAD」です[2]。「楽器じゃないものを楽器として使うMAD」でもだいたい合ってます。例えば2019年にブームを起こした「SSSS.パリッとマン」はシャニマスの音声をサンプリングしているので音MADですね。2016年にブームを起こした「BEMYBABY」はキャベツPの作品自体は音MAD要素は薄いものの、派生作品群である「BBEMYBABY」は元曲「BE MY BABY」をサンプリングしているものが多く音MADのブームであったと言えます。
このように音MADはアイマスカテゴリにおいても質・量ともに大きな存在感を持っています。今は特にシャニマスMADが顕著ですね。2019年の週マススペシャルをざっくり手元でカウントしてみたところ、100作品中47作品が音MADでした。すごい。

では2020年に爆発的ブームを起こしたたべるんごのうた作品群は元ネタのたべるんごのうたをサンプリングしていたか。
答えは概ねNOです。

第二次ブーム後1ヶ月くらいまでの殿堂入りんご作品を見ていくと、たべるんごのうたをサンプリングしているものは、合いの手的な使用を除くと9%、合いの手的な使用を含めても15%に留まっています。(バチさん作品と紀元前作品は趣旨から外れるので除外。)


いちばん音MAD音MADしているのは「危険なたべるんごのうた」「抜きゲーみたいな山形に住んでいるあかりはどう食べればいいンゴか?」の2作品でしょうか。「さくらんごのうた」「たべるんごに「Ievan Polkka」を歌わせてみた」では主役ではないものの耳心地良いリズム隊として支えているのが印象的です。

では、たべるんごのうたの音MADが主流にならなかったのは何故なのか?そして、たべるんごのうたブームが音MADブームではないことから何が言えるのか?

第一に元ネタであるたべるんごのうたがフリーソフトSoftalkによるもの(=ゆっくり音声)であることから音声素材として希少性が低く、音MADにするモチベーションを喚起できなかった。結果、音MAD制作者の参戦がなされにくく、第一次ブームがあの規模(44日で32作品)に留まる要因になった、と考えられます。
音MADというスタイルは制作環境を揃えるハードルの低さから制作人口が多く、制作のスピード感および界隈の文化から流行への感度が高いです。誰も注目していなかった素材で音MADを作ること(0を1にすること)、小規模な流行に便乗して流行を流行として定着させること(1を10にすること)を楽しむ文化があり、流行発生装置/増幅装置としての役割を持っています。このため、ニコニコにおけるブームは音MAD作品に牽引される形で発生することが多いです。
ただたべるんごのうたは前述のとおり音MAD素材としてはインパクトに欠けていた。このため音MAD作者の沢山いるアイマスカテゴリの中でカテラン長期ランクイン等一定の露出が有りながら、もっともよくある形の流行のレールには乗れなかったのだと考えられます。(例えば「危険なたべるんごのうた」あたりの名作音MADが第一次ブームの頃に来ていたら以降の展開は多少違ったかもしれませんね。)

第二に、第二次ブームで主流となった替え歌スタイルの人気の高さが指摘できます。
第二次ブーム初動では人力未経験者の追随を許さない速度で人力経験者による替え歌動画が投下されて「人力替え歌ブーム」の様相が形作られました。そしてニコニコ総合ランキングへのランクイン等を経てたべるんごブームはニコニコ全体に見つかり、描いてみたや演奏してみた等、各作者がそれぞれの得意なスタイルで参戦してくるフェーズに入ります。ただ音MAD人口の割には音MADで参戦してくる作者は少なく、未経験の人力替え歌に挑戦したり、ゆっくりに歌わせたりする形で何とかして替え歌に挑戦した人が多かった印象です。
たべるんご参戦フローチャート
├1人力経験者
│├1.1人力替え歌を作る(多数)
│└1.2あえて人力で作らない(少数)
└2人力未経験者
 ├2.1ゆっくりやAIきりたんで替え歌を作る(★意外と多かった)
 ├2.2人力替え歌に挑戦する(★意外と多かった)
 └2.3自分の得意ジャンルで作る(描いてみた、演奏してみた、音MAD等)
   (▲人口の割に音MADが意外と少なかった)
たべるんごのうた派生作品群は、コラボ先を選ばず懐メロから新曲まであらゆるものを飲み込むことから一見フリーダムなように思えて、実際は先駆者のスタイルをきっちり踏襲した作品群だったと言えます。
この背景としては、人力編集は音MAD編集と共通点があり人力未経験でも音MAD作者ならとっつきやすかった、AIきりたんが奇跡的なタイミングで公開されて替え歌の手段があった、「たべるんご」「やまがたりんご」等の基本フレーズから農家・アイドル的ストーリーまで替え歌を考えやすい・考えるのが楽しい題材であった、視聴者側の需要としても替え歌の方がウケが良かった、等の理由が考えられます。
なお、素材だけでなくスタイルが流行した例としてはジャガーマンシリーズシリーズカカポ等があります。割と新しめの流行の形なのかも?

また第二次ブームを初動を牽引した人がだいたい「人力も出来る音MAD作者」であったことから、「第一次ブームの段階で音MAD作者に認知されながら音MADとの相性により手出しされていなかったのが、第二次ブームでの替え歌スタイルの確立により手出しが可能となり、音MAD精神で派生作品が作られた結果、雪崩を打つようにブームが始まった」という見立ても出来るかと思っています。



最後に、音MADではなかったたべるんごのうたが流行し、まわりまわって[3]辻野あかりボイス実装を経て、結果「あかりふぁんくらぶ」みたいな音MADが生まれたっていう展開、激アツじゃない??????





激アツじゃない????????????????






(これが言いたかった。)

というわけで、たべるんご作品も、辻野あかり音MAD作品も、これからますますの盛り上がりを期待しています。

次の記事では、第一次ブームから第二次ブーム初期の作品を追いながら、動画スタイルの変遷を見ていきます。
→次記事:たべるんごブーム初期作品を動画ジャンル軸で振り返る



*1 この記事は他人事感満載でお届けしております。
*2 この記事では論旨のために「音MAD」を狭い意味で定義して使っています。「人力VOCALOIDも音MADだろ」という立場については一理あるので反対するところではありません。「狭い意味での音MAD」の話だと思って読んでくださいませ。
  逆に「たべるんごブームが音MADブームじゃないのは自明じゃん。何を当たり前のことをぐだぐだ言ってるのか」と思う人も居るかと思いますが、「音MAD」の定義については案外共通認識がないんじゃないかというのを肌感覚として感じていたので、今回触れてみた次第です。
*3 みんなで盛り上がってみんなが投票した結果です。

たべるんごブーム初期作品を動画ジャンル軸で振り返る